【Audible書評】大石哲之『コンサル一年目が学ぶこと』

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はじめに
本書は、コンサルタント会社出身の著者が、自身の経験と元コンサルタントへの取材に基づき、「新人時代に学び、今なお役立ち続けている知恵と技術」を実践的にまとめたものだ。

「コンサルタント」という言葉から、専門性の高い特殊な職業をイメージするかもしれない。しかし著者は、コンサルタント業界で新人が最初に徹底的に叩き込まれるスキルこそ、すべてのビジネスパーソンに必要な基礎力であると説く。

本書は、以下の4章で構成される。

  1. 話す技術: ファクトで話す、率直に話す、結論から話す、期待値を超えるといった、普遍的なコミュニケーションスキルについて解説する。
  2. 思考術: 論理思考や仮説思考、問題解決法といったコンサルティングの核となるスキルを中心に解説する。
  3. デスクワーク術:  議事録、スライド、情報収集、タスク管理など、質の高いアウトプットを支える技術について紹介する。
  4. ビジネスマインド: 必要なスキルというのは、業界や職種によって異なる。けれども、普遍的に通用する仕事をするうえでのマインドについて解説する。

本書の刊行は2014年だが、2025年現在、当時想定されていなかったツールである生成AIの使いこなしが、デスクワークに必須となっている。そこで、第二章「思考術」、第三章「デスクワーク術」については、生成AIとからめて、書評をしていきたい。

目次

1章 コンサル流話す技術

本書がまず最初に、そして最も多くの紙幅を割いているのが「話す技術」だ。高度な専門性を持つコンサルタントだが、その仕事の土台はコミュニケーションにあると著者は言う。

そして、コンサルタントがキャリアの一年目に徹底的に叩き込まれるこの「話す技術」こそが、業種や職種、経験年数を問わず、普遍的に役立つ「一生モノ」のスキルになるという。この章は、その具体的な方法と重要性を明らかにする。

結論から話す、PREP法

コンサルティングの現場では、あらゆるコミュニケーションにおいて「結論を最初に示す」ことが徹底される。報告書、メール、口頭説明など、すべてのコミュニケーションは、PREP法──Point(結論)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(再度の結論)──の順序で組み立てられる。

即答を焦るのではなく、「1、2分考えさせてください」と前置きして思考を整理し、要点を明確にした上で話す習慣が推奨される。

率直に、簡潔に、Talk Straight

著者が入社してすぐに教えられたのが「Talk Straight」という標語だ。これは「簡潔に話す」と同時に「駆け引きを排した率直さ」を求める。進捗報告では言い訳を挟まず、まず「何%まで進んでいる」という事実を伝える。依頼が不可能な場合は「できない」と明確に伝え、曖昧な応答で時間を無駄にしない。社内の駆け引きを避け、協力を前提としたシンプルなコミュニケーションを行うことで、誤解や無駄な調整コストを最小化する。

数字というファクトで語る

新人コンサルタントにとって、最大の武器は「独自に収集した数字」である。経験や肩書きが不足していても、客観的なデータと数値を示すことで、相手の納得を得やすくなる。感情的な主張や抽象的な概念ではなく、グラフや表、具体的な数値で裏付けることで、説得力を高める。

多様な背景を持つ相手と協働する際、文化や前提知識に依存しない「ローコンテクストなコミュニケーション」が推奨される。不要な文化的ニュアンスに頼らず、「論理と数字」という共通言語だけで会話を組み立てることで、誤解を防ぎ、効率的な意思疎通を図る。

伝え方の技術、理解度と期待値のマネジメント

話した内容が相手に伝わらなければ意味がない。話し手は「相手は何も知らない」という前提で、ゼロから説明を始める。説明中の無言や「だいたいわかりました」といった曖昧な返答を「理解不足のサイン」と捉え、相手の反応を確認しながら話を進める。

さらに、この章の締めくくりとして、「相手の期待値を把握する」こと、そしてそれを「超え続ける」ことの重要性が強調される。相手の期待を正確に把握し、それを上回る成果を出すことは、評価と信頼を得るために不可欠だ。期待に応えられない場合は、安請け合いせず、期待値を調整するという「期待値のマネジメント」も必要となる。

1章まとめ

1章は、コンサルタントの現場で最初に徹底される「話す技術」について解説している。結論を先に示すPREP法、駆け引きなく端的に語るTalk Straight、データで裏付ける数字主義、文化的前提に依存しないローコンテクスト、相手の理解度を確認しながら進める説明手法、そして期待値を正確に把握し超え続けること──いずれも独立したテクニックに見えるが、実際には「成果を出すための一連のプロセス」として有機的に結びついている。

特筆すべきは、これらを単なるノウハウではなく「習慣化すべき基礎体力」として位置づけている点だ。つまり、話す前に一呼吸置き、情報の構造化と相手視点の再確認を習慣にすることの必要性だ。小さな行動の積み重ね──結論先出し、事実重視、双方向のキャッチボール──こそが、長期的な信頼と成果を築くというメッセージが強く印象に残る。

2章 コンサル流思考術

第2章では、コンサルタントが問題解決の土台として用いる様々な思考法を解説する。ロジックツリー、雲雨傘理論、仮説思考といったフレームワークは、複雑な問題を整理し、効率的に解決策を見つけるための強力な武器となる。

構造化する力、ロジックツリーを使いこなす

コンサルティング会社に入って学べることの筆頭として著者が挙げているものが、「ロジックツリー」や「構造化」を用いた問題解決手法だ。

ロジックツリーを使う意義は、大きく4つある。一生使える汎用性、全体を俯瞰する視点、捨てるべき項目を見極める力、意思決定のスピード向上。いずれも、問題解決における基盤となる能力だ。

ロジックツリーの手法そのものは、コンサルティング会社に入らなくても、既に定番化した書籍群から学ぶことができる。端的にいえば、以下の手順に集約される。

  • 「漏れなく、ダブりなく(MECE)」論点を整理・分解する
  • 各論点について、定量的なデータを加えて分析する
  • それぞれの要素に重みづけを行う
  • 重要なものからアクションに落とし込む

本章で例として挙げられているのは、「痩せるには」という課題だ。巷にあふれるダイエット法は、そのままでは雑多で比較しにくい。しかし、ロジックツリーを用いて整理すれば、三つの大分類に集約できる。

  • カロリー摂取量を減らす
  • カロリー消費量を増やす
  • 体内不要蓄積物を除去する

さらにこれらの下に、個別の手法(食事制限、運動、断食、サプリ等)を小項目として体系的に分類できる。

分類後に、各項目ごとの消費・削減カロリーなどを数値分析すれば、重みづけが可能となる。これにより、「痩せるために最もインパクトの大きい手段」が明らかとなり、優先すべきアクションに変換できる。

AIがもたらす新しい視点

2025年5月、試しにChatGPTに「痩せるには」を尋ねてみたところ、こんな三つの大分類を提示された。

  • 摂取カロリーを減らす
  • 消費カロリーを増やす
  • 継続するための仕組みを整える

本書の「体内不要蓄積物の除去」は入っていなかったので追加で聞いてみると、AIは「補助的要素として扱うべき」として、「健康・代謝環境を整える」項目を提案。腸内環境や電解質バランス改善が小分類として並んだ。3番目の「継続しやすい仕組み」は本書にはなかった視点だが、ダイエットにおける最大の壁は「続けられるかどうか」なので、これは現実的で納得感がある。

ChatGPTの回答は初心者でもすぐに使えるフレームをくれる反面、MECE(漏れなくダブりなく)の精度を高めようとすると、まだ粗削りだと感じることも多い。それでも、ゼロから自分で考えるよりはるかに早く土台ができるのは、まさに今のAIの強みと言えるだろう。

AIをアドバイザー化して活用する

本書では、ロジックツリーを上達させるには、先輩や上司によるフィードバックが不可欠と説かれている。書籍やセミナーで理論を学んでも、自分だけでは「本当に漏れなく、ダブりなく整理できているか」を客観視しづらく、実務のなかで指摘を受けながら改善していく必要があるというわけだ。

しかし、常に上司がそばにいるとは限らない。ここでAIを「アドバイザー」として活用すると、手軽に客観的視点を取り入れられる。自分が作成したロジックツリーをChatGPTに提示し、「このツリーはMECEか? 足りない観点や重複を指摘してほしい」と尋ねるだけで、サプリと薬の区分があいまい、継続施策と代謝環境整備がかぶりそう、など具体的な改善点を示してくれる。

その後は、AIの指摘を鵜呑みにせず、自分自身で妥当性を検証し、必要に応じて枝の追加・削除や表現の見直しを行う。こうしたやり取りを数サイクル繰り返すことで、上司レビュー前の段階でも質の高いアウトプットが得られるかもしれない。

その意味でAIは“仮想の先輩”として機能し、自分の手と目だけではカバーしきれない抜け漏れを補ってくれる学習パートナーになり得るだろう。本書が説く「適切なフィードバックを受けながら上達する」プロセスを、AIと共に再現していくイメージだ。

雲雨傘理論の本質を再確認する

コンサルタント一年目にまず叩き込まれるのが、黒い雲(事実)→雨が降りそう(解釈)→傘を持つ(アクション)の「雲雨傘理論」だ。報告書や提案書では事実の羅列に終わらず、「この数値が示す意味は何か」「それを踏まえて何をすべきか」を明確に示すことが求められる。

たとえば医師の診察を思い浮かべればわかりやすい。血液検査の結果(事実)だけ渡されても患者は困る。どの臓器にリスクがあるのか(解釈)、今すぐ何をすればいいのか(アクション)を知りたいはずだ。ビジネスでも同様に、データ分析の結果から「何を読み取り」「どんな行動に落とし込むか」が、提案の成否を分ける。

仮説思考の意義

本書が仮説思考を「コンサルの核」と位置づけるのは、仮説→検証→フィードバックの高速サイクルこそが効率的な問題解決に直結するからだ。詳細調査に時間を奪われるより、「まずこうではないか」という仮説を立て、必要最小限のデータで検証ポイントを絞り込むほうがスピーディーかつ効果的である。

AIが加速する仮説検証

最新の生成AIは「なぜA店の売上が落ちたか」と尋ねるだけで複数の仮説と検証手順を瞬時に提示してくれる。将来的にはリアルタイムデータと連携し、問い立てからリソース配分までAIが提案する場面も増えるだろう。一方で、AIの示す仮説は過去のパターンに基づく推論にすぎないため、最終的に「どの仮説を優先し、どこまで深掘りするか」の判断と責任は人間に残される。

将来はともかく、現在時点では、AIによる提案をそのまま使うのではなく、「どの分析を行うべきか」のヒントを得るツールとして位置づけるとよい。たとえば、「このアンケート結果を多角的に分析したい。おすすめのクロス集計を5つ挙げ、それぞれの意義を説明してほしい」というプロンプトを投げる。その案をもとにExcelやSQLで実際に計算し直すことで、AIのハルシネーションを防ぎつつ、自らの理解を深められる。

※AIのデータ分析の活用法とハルシネーションについての参考:

2章まとめ

第2章では、問題解決の土台となる「構造化」と「仮説→検証→フィードバック」の高速サイクルが解説された。ロジックツリーでMECEに分解し、雲雨傘理論で事実・解釈・アクションを明確化し、仮説思考で効率的に検証を進める──この3つのフレームワークを組み合わせることで、複雑な課題にもスピーディーかつ抜け漏れなく対処できる。

AIは分析を迅速に支援してくれるが、最後の判断と責任はあくまで人間が担う。この“不動の役割分担”こそ、フレームワークの本質だろう。

3章 コンサル流デスクワーク術

2014年に出版された本書の第3章「コンサル流デスクワーク術」では、議事録作成からアウトプットドリブンの思考法、効率的な資料作成術に至るまで、コンサルタントに求められる基礎的な業務遂行能力が具体的に解説されている。これらのスキルは、当時、普遍的なビジネススキルとして高い価値を持っていた。

しかし、本書の出版から10年以上が経過した2025年5月現在、ビジネス環境は生成AI技術の急速な進化によって劇的な変貌を遂げている。かつては人間が時間をかけて行っていたデスクワークの多くが、AIによって代替または大幅に効率化されるようになった。

では、本書で語られる「コンサル一年目の基本」は、AIが浸透した現代において、いかにその価値を変え、あるいは保ち続けているのだろうか。ここでは、その今日的意義を再検証しながら書評したい。

議事録はAIが「草案」を生む時代に

本章では、議事録を「発言録ではなく、その会議で『何が決まったのか』を書く」ものと定義し、決定事項を証拠として残す重要性を説く。これは2025年においても変わらぬ本質である。しかし、その作成プロセスはAIによって根底から覆された。

音声文字起こしAIと大規模言語モデル(ChatGPTなど)を組み合わせれば、録音された会議から議事の骨子、決定事項、ToDoリストの抽出に至るまでの下書きは、ほぼ自動で生成可能だ。

例えば、GoogleのNotebookLMを紹介する『「NotebookLM」を200%活用して議事録を』『生産性低い会社はこれで一発逆転』といった動画では、AIによる議事録作成の実例を示している。

これらの動画を見ればわかるように、議事録を人間が「ゼロから書く」時代は終わりつつある。人間の役割は、AIが生成した内容のファクトチェック、合意形成における機微なニュアンスの補足、そして最終的な承認といった、より高度な判断が求められる部分へと移行している。

2014年には想像もできなかったこの変化は、単なる便利ツールの登場を意味しない。「手作業で情報を整える技術」から「AIが出力した情報を的確に選び、編集・判断する技術」へのパラダイムシフトを、私たちは今、経験しているところだ。

アウトプットドリブン:AIと共に描く「逆算」と人間による「目的設定」

本章が強調するもう一つの重要なデスクワーク術は、「最終成果物から逆算して、作業プランをつくる」という「アウトプットドリブン」の思考法だ。仕事のゴールを最初に明確にし、そこから必要なタスクを洗い出すこのアプローチは、無駄をなくし効率的に成果を出すための普遍的な原則であり、2025年においてもその重要性は揺るがない。

2014年当時、この逆算プロセスは主に人間の経験と分析力に頼っていた。プレゼン資料作成を例に取れば、まず最終的なメッセージと構成を頭の中で描き、パワポの白紙にタイトルを打ち込みながら骨子を具体化し、その後で必要な情報を集めるのが一般的だった。

AIが普及した現代では、この「逆算」のプロセス自体がAIによって強力にサポートされる。プロジェクトの目的や期待される成果物をAIに伝えれば、関連情報の収集・整理・分析から、論理的な構成案の提案、さらには具体的なタスクリストへの分解までを支援してくれる。

例えば、プレゼン資料作成であれば、AIが複数の骨子案やデザインテンプレートを提示し、場合によってはドラフトとなるコンテンツまで生成してくれる。これにより、人は作業の初期段階から質の高い選択肢を手に入れ、より創造的で戦略的な部分に集中できる。

また、本章で提示される資料作成の指針「ワンスライド、ワンメッセージ」、つまり、一枚のスライドには、根拠となる事実+解釈や主張のワンセットのみ提示する、という「型」は、AIに指示を出す際の明確な指針となるだろう。

しかし、AIがどれほど進化しても、「アウトプットドリブン」の根幹にある「何を、なぜ、誰のためにアウトプットするのか」という目的設定そのものは、依然として人間の最も重要な役割だ。AIに的確な指示を与え、その能力を最大限に引き出すためには、人がこの「WHY」と「WHAT」を明確に定義し、最終的なアウトプットが持つべき価値を深く理解していなければならない。

また、AIが生成したプランや成果物候補に対して、それが本当に目的に合致しているか、品質は十分か、倫理的な観点から問題はないか、などを多角的に評価し、最終的な意思決定を行う批判的思考力と専門性も、これまで以上に人間に求められる。AIは効率化のツールではあるが、その出力を盲信するのではなく、人間が最終的な品質と価値に責任を持つという姿勢が不可欠だ。

3章まとめ

本書の第3章は、かつての新人コンサルタントにとって、確かに自らの“血肉”とすべき実践的な教科書であった。しかし、AIが社会の隅々に浸透しつつある現代において、そこで詳述される技術的スキルの多くは、もはや「人間が自らの手でゼロから行うもの」ではなく、「AIという強力な道具をいかに賢く使いこなし、そのパフォーマンスを最大化するか」という対象に変化した。

それでもなお本書が価値を失わないのは、こうした「道具の使い方」以前の、普遍的な「思考法」や「仕事のスタンス」を伝えている点にある。AIが議事録を書き、AIがパワポをデザインし、AIがデータ分析の示唆を与え、AIがプロジェクトの道筋を提案するようになったとしても、「何を、なぜ、誰に伝え、どのような成果を出すべきか」という本質的な問いを設定し、最終的な意思決定を行うのは、今でも、変わらず人間なのだ。

4章 コンサル流ビジネスマインド

第4章では、職種や業界を超えて普遍的に重要な、プロフェッショナルとしての心構えや仕事への取り組み方が解説されている。成果を出すための考え方、仕事の進め方、チームでの働き方など、ビジネスパーソンとして成長するための土台となる重要な要素たちだ。

価値提供の原点、相手志向のバリュー

第4章が強調する「バリューを出す」とは、単に成果物を作るだけでなく、受け手が「これが欲しかった」と感じる付加価値を提供することを意味する。自分本位の仕事ではなく、顧客や上司の視点に立ち、「何が最も助かるのか」を常に問い続ける姿勢が重要となる。

例えば、詳細にまとめた調査レポートが美しく整っていても、実際の意思決定に必要な要点が埋もれていれば、それは価値のある仕事とは言えない。価値を生む仕事とは、相手が抱える具体的な課題を明確に解消し、次のアクションにつながる情報や提案を的確に示すことだ。

効率と品質のバランス(Quick and Dirty)

仕事を効率的に進める上で、「Quick and Dirty」という考え方を、著者は重要視している。これは、「時間をかければかけるほど良いものができる」という従来の考え方とは大きく異なり、「スピードを追求することで、結果的に品質も向上する」という逆説的な発想だ。仕事ができる人は、総じて仕事が早い傾向にあるという事実は、この考え方を裏付けている。

具体的には、最初から完璧なものを目指すのではなく、「多少粗削りでも構わないので、とにかく早く形にする」ことを重視する。3日かけて100点の成果物を出すよりも、3時間で60点の成果物を出し、フィードバックを得ながら改善していく方が、最終的にはより高い品質の成果物をより早く完成させることができる。

まず、方向性が定まった段階で、ラフな成果物(60点程度)を迅速に作成することで、現在のアプローチが適切かどうかを早期に確認できる。これにより、もし方向性が間違っていた場合でも、大きな損失を回避し、迅速に軌道修正を行うことができる。おおまかな答え(YES/NO)をできるだけ早く見つけることを最優先とし、それが正しい方向であれば、その後で精度を高める作業(PDCAサイクルを回して90点、95点と近づけていく)を行えば良い。

また、資料の精度は、ある程度以上になると、投入する時間に対する改善の度合いが逓減するという性質を持つ。0点から90点に到達するまでに要する時間と、90点から99点、あるいは99点から100点に到達するまでに要する時間は、ほぼ同じくらいになる。そのため、おおまかな答えを見つけることを最優先にする。

おおまかな答えにYESかNOが出たら、精度向上は一旦後回しにして(必要であれば後で行う)、次のステップに進んだ方が、結果的に良い成果につながる、と本書は説く。100点を目指すのではなく、90点で止めておく方が、仮説検証のサイクルを速く回し、より多くのことを学べるという考え方だ。

プロとしての覚悟、コミットメント力

コンサルタントには常に高いコミットメントが求められると著者は言う。仕事に対するコミットメントとは、「約束したことを、必ずやり遂げてくること」だ。それが信用につながり、次のチャンスを広げる。

コミットする対象は、常にクライアントだ。自分ではなく、クライアントを起点に考え、クライアントの求めるものを約束どおりに実現する。

さらに、本書は、組織全体のコミットメント意識の重要性にも言及している。もし、社内全体にコミットメントを軽視するような風潮がある場合、そこに長く留まると、自身のプロフェッショナル意識が蝕まれてしまう可能性がある。そのため、若いうちに、より高いプロフェッショナル意識を持つ人々が集まる環境へと移ることも、キャリア形成においては重要な選択肢となる。著者は、若いうちは、どのような仕事をするかよりも、誰と仕事をするかのほうが、長期的な成長にとって重要だと述べている。

チームを成功に導くフォロワーシップ

プロフェッショナルな働き方において、「フォロワーシップを発揮する」ことも、非常に重要な要素だ。フォロワーシップとは、単に指示に従うだけでなく、リーダーの提案を成功させるために、周囲を巻き込み、必要なことを自ら考え、自主的に行動するという、主体的な貢献の姿勢を意味する。

これは、部下としてのリーダーシップとも言える。優れたチームには、優れたリーダーだけでなく、優れたフォロワーが存在する。最初に提案を行うのはリーダーの役割だが、その提案を実現するために、率先して自主的に行動するのが、フォロワーシップの本質だ。チームメンバーの一人ひとりが、リーダーの意図を理解し、自らの役割を認識し、積極的に貢献することで、チーム全体のパフォーマンスは最大化される。

4章まとめ

第4章は、プロフェッショナルとして働く上で不可欠な、普遍的なビジネスマインドについての解説だった。顧客視点での価値提供、コミットメント力、フォロワーシップやチームワーク。これらの要素は、職種や業界を超えて、すべてのビジネスパーソンに共通する重要な指針となる。

大石哲之『コンサル一年目が学ぶこと』(2014年)を読んで

2014年の刊行から年月を経ても本書が読み継がれるのは、小手先の技術ではなく、仕事の「本質」を捉えているからだ。MECEを意識して構造的に問題を解決する。常に相手への価値提供を意識し、期待を超える成果を出す。そして、何があっても約束は守り、チームで最高のパフォーマンスを発揮する。本書で語られるこれらの原則は、シンプルながら、日々の業務で徹底するのは容易ではない。本書は、ときに立ち止まり、自分の働き方を「問い直す」ための良き伴走者となるだろう。

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