その優しさ、テイカーに奪われてない? アダム・グラント『GIVE & TAKE』【書評】

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  • 書名: GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代
  • 原題: GIVE AND TAKE: Why Helping Others Drives Our Success
  • 著者: アダム・グラント(Adam Grant)
  • 出版社: 三笠書房(原書:Viking Adult)
  • 発売日: 2014年1月8日(原書:2013年)
  • Audible聴き放題対象作品

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その人と会うと、いつも心がとても疲れる。精神的なエネルギーが抜け落ち、言葉にできないモヤモヤが、心の底に澱のように積もっていく。何年もそうしているうちに、その人を思い浮かべるだけで、心が拒否反応を起こす。

私には、そしてあなたにも、きっと、そういう人がいるはずだ。

その人こそが、「テイカー」だ。

目次

ギバー・テイカー・マッチャーとは?

本書では、現代社会で多くの人がとる3つの基本行動スタイルを、初めて一般向けに解説した一冊だ。さらに著者は、ギバーを「自己犠牲型」と「他者志向型」の2タイプに分け、実質的に4つのスタイルとして解説している。

  • 他者志向的なギバー: 他者と自分の利益、両方を求める
  • 自己犠牲的なギバー: 自分の利益は顧みず、他者の利益を求める
  • テイカー: 自分が与える以上の利益を他者に求める
  • マッチャー: やり取りには、常に公平・平等を求める
4人のイラスト

豊富な実証データが語る「人間関係のメカニズム」

一般的な自己啓発書なら、これらの概念を比喩や例え話で説明して終わり、となるだろう。だが本書は違う。歴史上の人物の評伝、報告書、公文書、決算書、現代の人物へのインタビュー、心理実験、社会調査など、こうした実証的データをもとに、構成されている。

次々と上げられる事例。だけど語り口はとても巧妙で、エピソードごとに、ギバー、テイカー、マッチャーが登場し、失敗と成功のミニドラマが展開される。著者は学者であると同時に、一流のストーリーテラーでもあるのだ。

「ギバー=いい人」ではない

「ギバー」と聞くと、無条件でいい人のように思えるかもしれない。けれど実際には、ギバーのなかにも成功する人と、そうでない人がいる。

人のために尽くすあまり、自分のリソースを削りすぎて燃え尽きるギバーもいる。一方で、戦略的に「与えること」を選び、自分の信頼残高を積み上げていくギバーもいる。
ギバーは「お人好し」ではあるけれど、「報われる人」と「搾取される人」の違いがあるのだ。

テイカーとギバーは、成功の「仕方」が違う

ギバーとテイカー

社会的に成功する人には、ギバーもテイカーもいる。ただし、成功の「仕方」が違う。

テイカーはゼロサムゲームで物事を考える。自分が勝ち、得をするには、誰かが負け、損をしなければならない。そんな世界観で成功を目指していく。

一方、ギバーが成功する時は、その成功が周囲にも波及する。ギバーの成功は、他者の成功を増幅させる。Win-Winの関係を築きやすいのだ。

ギバーにとって、原石は「見つけるもの」ではなく「磨くもの」

ギバーは、自分のことだけでなく、まわりの人の成功にも力を貸そうとする。彼らは楽観的で、人に対して「この人には可能性がある」と信じている。その前向きな姿勢が、良き教師や相談役、コーディネーターとしての資質につながっていく。

心理学者ベンジャミン・ブルームが一流ピアニストとその親にインタビューしたところ、彼らは最初から有名な教師に学んでいたわけではなかった。多くは近所の無名なピアノ教師に師事していたという。

その教師たちに共通していたのは「ギバーであること」。ピアニストたちは、初めての教師を「思いやりがあり、親切で、寛容だった」と口を揃えて振り返る。つまり、彼らの才能の芽を育てたのは、相手の可能性を信じて、支え続けたギバーだったのだ。

ピアノ教師

その一方でに、テイカーは、人の意図を疑う。警戒心が強く、「口では成果を出すと言ってるが、どうせ無理だろう」と思ってしまう。だからこそ、部下や同僚の背中を押すような支援ができない。

マッチャーはというと、慎重派だ。相手にやる気と才能があると確信できるまでは、助けを控える傾向がある。でも一度「この人は本物だ」と判断すれば、しっかり応援できる。頼れる同僚にも、良い先輩にもなれる存在だ。

テイカーは、見た目ではわからない

「テイカー」と聞くと、自己中心的で強欲な人物を思い浮かべがちだ。しかし、現実はもっと巧妙だ。

人当たりが良く、笑顔を絶やさず、礼儀正しく、気配りができて、才能もあり、成果を上げ続ける—そんな「好人物」こそがテイカーだったりする。

さらには、気前よく振る舞うテイカーもいる。だが、マフィアが教会に多額の寄付をしたからといって、彼らがギバーだとは限らない。

女性2人のギバーとテイカー写真

テイカーは、あなたを自分の目的のために踏み台にする。しかもあなた自身が、踏み台にされていることに気づいていない場合もある。

「才能があるから」「優しい人だから」「ボランティアもしてるし」—そんな理由で、協力を断れないこともあるだろう。

でも、テイカーは、あなたの心がすり減っていることに気づきもしないし、気にもかけない。表面上は礼を言い、報酬を渡すかもしれないが、それは「利用料」だ。

だからこそ、アダム・グラントはこう語る。

「初対面でテイカーを見抜くのは至難の業だ」

テイカーを見抜く質問

アダム・グラントによると、テイカーを見抜くための質問はこうだ。

「自分のおかげでキャリアが劇的に向上したと思う人を4人挙げてください」

テイカーは、社会的に影響力のある人の名前ばかりを挙げる。一方でギバーは、自分より立場の低い人や、世間的にはあまり知られていない人の名前を挙げることが多い。

テイカーは、社会的成功者の過去に少しでも貢献したと感じれば、その成果を自分の手柄として語る。
ギバーは、相手の肩書きに関係なく、機会があれば迷わず親切の種をまく。

種をまく人

ギバーは、いつもあちこちに親切の種をまいている。けれど、その種が芽を出すには、時間がかかることも多い。

短期的には、お人好しに見えるかもしれない。けれど数年経ってみると、成功者のネットワークのど真ん中に、ギバーが静かに座っている—そんなことがよくある。

対照的に、テイカーやマッチャーは、「貸し借りの収支」をすぐに計算してしまう。だから関係が広がりにくいのだ。

時代とともに変わる、ギバーとテイカーの見え方

現代では、ギバーが成功する例は意外と多い。彼らは、自分だけでなく周囲の利益を考えて行動し、ビジネスや研究、ボランティアに取り組んでいる。

一方でアダム・グラントは、社会的に成功したテイカーの例も紹介している。

例えば、エンロン社のCEOケネス・レイ、建築家フランク・ロイド、ポリオワクチンの開発者ジョナス・ソークなどだ。彼らはいずれも、大きな成功とともに、周囲を踏み台にしていた面もあった。

だが、SNSが発達した今の時代、彼らのような成功は今後実現しづらくなるかもしれない。ギバーとテイカーの「見え方」は、時代とともに変わっていくからだ。

3つの時代
  • 村落共同社会: この時代、人々は狭い共同体の中で生活していて、そのため、ギバーとテイカーの違いが明確で、ギバーは信頼される存在だった。
  • 近代社会: 近代化が進むと、職住分離が一般的になり、人々は複数のコミュニティに属するようになる。これにより、テイカーの本質が一部の人にしか知られず、社会的評価が分散するようになった。
  • 高度情報社会: 現代では、SNSの普及によって個人の行動が瞬時に拡散されるようになった。テイカーの行動は可視化され、批判の対象になりやすくなる。一方で、ギバーの貢献も広く認知される機会が増えた。

写真を見ただけでわかること

巧妙にギバーのふりをしているテイカーでも、必ず手がかりを漏らすことが調査から分かっている。この行動を、動物行動学では「レック」(lek)と呼ぶ。

雄のクジャクは縄張りを決め、美しい羽をひけらかしはじめる。羽を大きく広げ、これ見よがしに気どった足どりで歩き、クルッと回って羽をヒラヒラとひるがえす。
CEO界でも、テイカーはこれにとてもよく似た求愛ダンスをするのだ。

孔雀と政治家

企業の年次報告書や、フェイスブックのページを見て、この「レック」をたどる方法については、ネタバレになるので、本書に譲ろう。

本書を読んだ後で実際に試してみてほしい。例えば、東京都議会の公式サイトには、都議会議員の個人サイト一覧が掲載されている。

東京都議会 https://www.gikai.metro.tokyo.lg.jp/⇒議員の紹介⇒議員名簿⇒都議会議員Webサイト

私はそこから順番に議員のサイトを見ていった。最初は、政治家のウェブサイトなんてどれも似たようなものだと思っていたが、実際に見てみると、写真の構図や写り方に意外な個性があることに気づいた。

ふむふむ……ふむふむ……あ、この人はもしかして!?

あとは、読者のみなさんの判断にお任せします。

ギバーが力を発揮できるチームとは?

本書の紹介記事の最後に、アダム・グラントのTEDの講演会について引用しよう。

ギバーが最大限に力を発揮するには、何が重要か? それは「チームメンバーの選定」である。
私は当初、ギバーを揃えればいいと考えた。

スライド1

しかし、それは誤りだった。驚くべきことに、たった一人のテイカーが与える悪影響は、ギバー一人の良い影響の2~3倍にもなるのだ。

テイカーが一人でもいると、ギバーは貢献を控えるようになる。一方で、ギバーを一人加えたからといって、親切の連鎖が自然発生するわけではない。「この人がやってくれる」と周囲が依存してしまうだけだ。

つまり、チーム編成で最も重要なのは、ギバーを集めることではなく、テイカーを排除することなのだ。

スライド2

ギバーとマッチャーのみで構成されたチームでは、搾取が起こり得ないため、ギバーは安心して親切心を発揮できる。マッチャーもその雰囲気に同調し、協調性が生まれる。

参照:アダム・グラント TED講演 ※設定で日本語字幕にできます


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